「Stable Diffusionは無料。しかも自分のパソコンで動かせば、何枚生成してもタダ」。この一文に惹かれて調べ始めた人は多いと思います。私もそうでした。ところが検索して出てくる記事は、どれも「稼げるアイデア5選」で終わっている。イラスト販売、YouTube用の素材、スタンプ、ロゴ。並んではいるのに、こちらが一番知りたいことに答えがない。
知りたいのは、その手前です。そもそも自分のパソコンで動くのか。動いたとして、その絵を売っていいのか。
この二つが抜け落ちるのは、たぶん書き手がそこでつまずいていないからです。無料なのはソフトの利用料だけで、動かす場所と、生成した絵を商売に使う権利は、それぞれ別の勘定になっています。ここを確かめずにダウンロードすると、週末を潰して環境構築だけで終わるか、売り物にできない絵が手元に溜まるかのどちらかになります。
やっかいなのは、確かめるべき情報が英語のライセンス文書とモデル配布サイトの中に散らばっていることです。日本語の解説はあっても、副業として売るところまで話がつながっていない。
私は平日は製造業の管理職として働きながら、休みの日にAIの画像生成を触っています。この記事では、ダウンロードボタンを押す前に確かめる3つの条件を、順番に潰していきます。
「無料」なのはソフトだけ。最初の分岐は動かす場所
Stable Diffusionはモデルそのものが公開されていて、ダウンロード自体にお金はかかりません。ここは本当です。有料になるのは、動かすための計算資源のほうです。
先に結論を書きます。グラフィックボードが載っていないパソコンでは、実質的に使いものになりません。ここを曖昧にしている記事が多いので、はっきり書いておきます。
目安はVRAM(グラフィックボード側のメモリ)の量です。旧世代のSD1.5系なら6GBあたりから動きますが、今から始めるなら画質の面でSDXL系を選ぶことになり、そこは8GBが実用の下限になります。会社支給のノートパソコンや、量販店で買った内蔵グラフィックスの機種は、ここでほぼ脱落します。CPUだけでも動くことは動きますが、1枚に十数分かかるので、試行錯誤が成立しません。
電気代を心配する声もよく見かけますが、これは気にしなくていいです。仮に300Wのマシンを毎日2時間回しても、月に18kWh前後。電気料金を1kWhあたり31円(全国家庭電気製品公正取引協議会が示す目安単価)で計算しても600円足らずです。止めるべき理由にはなりません。
グラフィックボードが無い場合の逃げ道はクラウドですが、ここにも落とし穴があります。かつて定番だったGoogle Colabの無料枠は、2023年4月からStable DiffusionのWeb UIを動かすと警告が出る扱いになりました。負荷が大きすぎて無料枠の予算に合わない、というのがGoogle側の説明です。現在この用途で使うなら有料のColab Proが前提で、月額1,179円です(Google Colabのプラン一覧より)。ほかにも時間課金のGPUレンタルサービスがあり、使った分だけ払う形なら月に千円台から収まります。
だから私の考えはこうです。いきなり十万円のグラフィックボードを買うのは順番が違う。まずクラウドで千円台を1か月払って、自分がそもそも枚数を作る人間なのかを確かめる。続いた人だけが機材を検討すればいい。この順番なら、合わなかったときの損は千円で済みます。
モデルのライセンスを見ないと、売れる絵と売れない絵が混ざる
ここが二つ目の壁で、そして飛ばされがちなところです。
Stable Diffusionを実際に使うとき、本体だけを使う人はほとんどいません。イラスト向き、実写向きといった追加のモデルを配布サイトから落として差し替えます。この追加モデルのライセンスが、本体とは別物なのです。
本体側の条件はバージョンで分かれます。SD1.x系とSD2.x系はCreativeML Open RAIL-M、SDXLはその改訂版であるOpen RAIL++-Mで、いずれも用途の禁止事項を守れば売上の制限なく商用利用できます。一方、SD3系以降はStability AI Community Licenseに変わり、年間の総収益が100万ドル未満なら無料で商用利用可という線引きになりました(Stability AI「Community License」)。副業で始める個人がこの100万ドルに当たることはまずありませんが、条件の形が違うことは知っておいてください。
問題は追加モデルのほうです。配布サイトのCivitaiでは、商用利用を許すかどうかをモデルを作った人が個別に決めています。同じサイトに並んでいても、生成した画像を売っていいモデル、画像は売っていいがモデル自体の再配布は禁止のモデル、そもそも商用不可のモデルが混在している。見た目では区別がつきません。
確認するのは1か所です。モデルのページの説明文の下にLicenseという欄があり、そこに許可・禁止の項目が並んでいます。「Sell images they generate(生成した画像を販売する)」に相当する項目が許可になっているかを見る。ダウンロードする前に、この欄のスクリーンショットを撮っておくと後で困りません。ライセンスは作者の判断で更新されることがあるからです。
もう一つ。ライセンス上OKでも、特定の作家や作品の絵柄を狙って学習させたモデルは、権利の面で別の問題を抱えます。ライセンス欄が許可になっていることと、そのモデルで作った絵を売って安全であることは、同じではありません。売り物にするなら、素性のはっきりした汎用モデルを選ぶほうが結局は早い。著作権まわりで会社員が踏みやすい線は、別の記事で整理しました。
どこで売るかで、通る通らないが決まる
環境とライセンスをクリアしても、三つ目の関門があります。売り先の受け入れ条件です。ここは販売プラットフォームごとにまるで違います。
ストックフォト系は、AI生成であることの申告を求めたうえで受け入れる方向に整理が進んでいます。ただし審査は通ります・通りませんがはっきり出るので、生成したまま出しても弾かれます。実際に落ちる理由と直し方はAdobe Stockの審査落ちを扱った記事にまとめました。
スキルマーケット系は、AI生成の扱いをカテゴリごとに定めている場合があります。出品前に規約を読むところからで、ここを飛ばして凍結されると復旧に時間がかかる。ココナラでの線引きも、始める前に一度目を通しておいてください。
そして、どの売り先を選ぶかという全体像はAIイラストの販売先4タイプの記事で扱っています。Stable Diffusionは道具の話で、売り先の話とは別軸です。道具を先に決めて売り先を後回しにすると、作った絵が置き場所を失います。
「Stable Diffusionで月30万円」といった数字を掲げる教材やツールも出てきますが、判断材料になるのは謳い文句ではなく条件のほうです。その金額は何枚売って出たのか。使ったモデルは商用可か。売り先はどこで、審査を何回落ちたのか。この三つが書かれていないものは、私は保留にします。
会社員が最初の1か月でやること
平日の夜に取れるのは30分が二、三回。休みの日に2時間。それを前提に組みます。
1週目|千円台のクラウドで、まず100枚出す。環境構築の解説記事どおりに進めて、その日のうちに1枚出す。ここで動かなければ、選んだ環境が悪いのでさっさと別のサービスに移ります。粘るところではありません。目標は枚数で、100枚出すと自分の手癖と、思いどおりにならない部分がはっきりします。
2週目|使うモデルを2つに絞り、ライセンス欄を保存する。あれこれ試したくなりますが、増やすほど絵柄が散らかって商品になりません。商用可のものを2つ選び、ライセンス欄のスクリーンショットを日付つきで残す。ここまでが仕込みです。
3週目|売り先を1つ決めて、規約を読んでから10点出す。複数に同時に出さないこと。落ちたときにどの条件が原因か分からなくなります。1つに絞れば、落ちた理由が次の10点に反映できます。
4週目|通った点と落ちた点を並べて比べる。ここが一番学びが多い工程です。落ちた側だけを見ても分かりませんが、通った側と並べると、解像度なのか、構図なのか、指の破綻なのか、原因がだいたい浮かびます。
この4週間で売上が立つとは思わないでください。1か月で分かるのは「自分は枚数を作り続けられるか」だけです。それが分かれば十分で、続けられないと分かったならクラウド代の千円台で撤退できます。遠回りして分かった順番の話も、結局はここに行き着きました。
私が試して気づいたこと
最初にやったのは、いちばんよくある失敗でした。人気ランキング上位のモデルを片っ端から落として、次々に切り替えながら生成する。楽しいんです。1枚ごとに絵柄が変わるので、ずっと当たりを引いている感覚になる。
けれど1か月後に残ったのは、統一感のない画像が数百枚と、どのモデルで作ったか分からないファイル群でした。売り物にしようとして初めて気づいたのが、ライセンスを1件も確認していなかったこと。遡ろうにも、どの絵がどのモデルか分からない。全部捨てました。
それ以来、生成した画像のファイル名にモデル名を入れています。地味ですが、これで戻れるようになりました。本業で図面や検査記録を扱っていると、記録が無いものは無かったのと同じという感覚が身につくのですが、趣味の延長で触っているときはすっぽり抜けていた。
もう一つ。枚数を出せば出すほど分かったのは、絵そのものより、その絵を置く場所を持っている人のほうが強いということです。同じ品質の画像でも、素材サイトに投げるだけの人と、自分のサイトやコンテンツの中で使い道を持っている人とでは、1枚あたりの価値が変わります。作る力より、使い道のほうが後から効いてくる。
よくある質問
グラフィックボードが無いパソコンでも始められますか?
ローカルで動かすのは諦めてください。CPUだけでも生成はできますが1枚に十数分かかり、試行錯誤が成立しません。クラウドのGPUを時間で借りるか、Colab Pro(月1,179円)を使う形になります。この千円台を1か月払って続くかどうかを見るのが、機材を買うより先です。
Stable Diffusionで作った画像は、自由に売っていいのですか?
本体のライセンスと、使った追加モデルのライセンスの両方を満たせば売れます。落とし穴は追加モデルのほうで、商用利用の可否は作者が個別に決めています。ダウンロード前にモデルページのLicense欄を確認して、スクリーンショットを残しておいてください。
MidjourneyやDALL-Eではなく、Stable Diffusionを選ぶ理由は何ですか?
生成した枚数に応じた料金が発生しない点と、モデルを差し替えて絵柄を固定できる点です。逆に言えば、月に数十枚しか作らないなら月額制のサービスのほうが手間もコストも軽い。枚数を作る前提が無いなら、無理にこちらを選ぶ必要はありません。
SD3系とSDXL、どちらを使えばいいですか?
副業で始めるならSDXL系が無難です。追加モデルの数が圧倒的に多く、日本語の情報も揃っています。SD3系はライセンスの形が年間収益ベースに変わっていますが、個人が年間100万ドルを超えることはまず無いので、そこが理由で避ける必要はありません。
1か月でいくら稼げますか?
ゼロで見ておいてください。最初の1か月で分かるのは、自分が枚数を作り続けられる人間かどうかだけです。数字が動き出すのは、売り先の審査に通る型が見つかってからで、そこまでに落ちる回数のほうが先に増えます。逆に、その千円台の授業料で向き不向きが分かるなら安いほうです。
生成した画像を素材サイトに大量投稿しても大丈夫ですか?
量を出す前に、通る型を1つ確定させてください。まとめて弾かれると審査履歴が悪くなり、その後の判定にも響きます。10点出して通った点と落ちた点を比べる、を何周かして型を掴んでからのほうが、結果的に早く積み上がります。
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まとめ
Stable Diffusionは無料ですが、無料なのはソフトだけです。動かす場所に千円台から、モデルのライセンスに確認の手間が、売り先には審査がある。この3つを先に潰しておけば、週末を環境構築だけで溶かすことも、売れない絵を数百枚抱えることもありません。
順番はひとつです。機材を買う前に、千円台のクラウドで100枚出す。そこで自分が続けられるかを見てから、機材とモデルとお金の話に進んでください。続かなかったとしても、失うのは千円と週末が数回だけです。

